論文の書き方

東大の千葉滋先生が書いたマニュアル。研究室の先輩が送ってくれた。短くて分かりやすい。

覚えておこう。

http://www.csg.ci.i.u-tokyo.ac.jp/~chiba/writing/sld001.htm

論文の書き方(千葉 滋、1997年1月)

  1. 論文書きの手順

    • なんとなく書き始めてはいけない!
    • ① 論旨の組み立て
    • ② アウトラインの作成
    • ③ 本文の執筆(アウトラインからはずれないように
    • NOTE
      • せっかくアウトラインを書いても、書いている途中でいろいろ考えが変わり、結局書きあがったものは、アウトラインとは似ても似つかなくなってしまったことはないだろうか。そんな経験を何度かすると、結局無視してしまうのだから、とアウトラインをおざなりにしてしまいがちである。
      • しかし、アウトラインは論文の設計図である。設計図がいいかげんなまま書いた論文は、けしてよい論文にはならない。あわてて本文の執筆に取り掛からずに、十分にながい時間をアウトラインの作成にさくべきである。
      • アウトラインは、それを見ればもう何も考えなくても本文が書けるほどに、詳細化した方がよい。例を使う場合には、どんな例を使うか概要をアウトラインに書き込む。自分のシステムの特徴を論文中で述べるのなら、どの特徴を述べるのかリストアップする。
    • ① 論旨の組み立て

      • Thesisの発見: それを読者に伝えるのが論文の唯一最大の目的
      • Thesisを肉付け:その論文で主張すること、説明すること、その根拠を個条書きにする。
      • NOTE
        • Thesis は命題、あるいはテーゼと訳される。長さは1文ないしは2文程度である。論文要旨をさらに要約したものと考えればよい。Thesis をさらに要約するとタイトルになるわけである。
    • ② アウトライン

      • Dissertation風:はじめに、関連研究と問題意識、研究のアイデア、実験、まとめ
      • Conference paper 風:はじめに、問題意識、研究のアイデア、実験、関連研究、まとめ。
      • NOTE
        • Dissertation (学位論文)風と Conference paper (学会発表論文)風の違いは、その長さである。
        • 学位論文は長くできるので、関連研究を概観しながら現状の問題点を浮き彫りにするスタイルをとることが多い。そうやって、その論文が解こうとしている問題を示し、同時にそれまでの研究の流れの中に、自分の研究の位置づけるのである。
        • 一方、学会発表論文は相対的に短く、またその論文の読者はその分野の研究者である。従って、できるだけ論文の始めの段階でその論文が解こうとしている問題を示すことが求められる。関連研究やその論文の研究の位置づけなどは、まとめの直前に手短に要点だけ述べればよい。
    • 「はじめに」の書き方

      • 「はじめに」は全体の要約。退屈な前振りではない。
        • (短い)背景、問題意識、アイデアの要点、欠章以降の構成、を順に述べる。
        • 悪い書き出しの例
          • 近年の計算機技術の発展に伴い、分散FSの重要性が増やしている。分散FSは重要なビジネスの現場で使われ始めているので、XXX性能の改善が急務である。XXX性能を左右する原因は。。。
        • NOTE
          • 典型的な悪い書き出しでは、ごく一般的なことを、さしたる科学的・技術的裏付けもなく主張して、なかなか本題に入らない。よい論文の書き出しでは、裏付けのない一般論にふれてはならない。代わりに、その技術分野の現状を客観的にまとめ、すぐ次の段落で、その論文が解く問題をできるだけ厳密に提示するのがよい。厳密に、というのは、大風呂敷を広げすぎて、その論文の解法では解けもしないことが、あたかも解けるかのような書き方にならないように気を付けよ、という意味である。
          • 上の悪い書き出しを直すとすれば、例えば次のようになるだろう:「現在の分散ファイルシステムでは、XXX性能をあまり高められない。なぜなら、YYYとなっているため、ZZZだからである。」
      • 「問題意識」の書き方
        • 例を効果的に使い、要点をわかりやすく
          • 理想的には、ここで従来技術ではうまくいかない例を示し、後に研究のアイデアを示した後、そのアイデアを使うと、同じ例がうまくいくことを示せるとよい。
          • 例の選び方は、論文の質を左右する:簡単で、問題点が浮かび上がるような例を
        • NOTE
          • 関連研究の多い分野では、あらかじめ関連研究のレビューをしてから問題意識を説明したいかもしれない。例えば、「この分野には、~という問題がある。これを解決するために、~という方法が提案されたが、これには~という欠点がある。そこでこの論文では、この欠点を回避する方法を示す」という流れにしてしまいがちである。
          • だが、とくに学会発表論文では、その分野の研究者が相手であるので、関連研究のレビューはごく手短にして、直接、その論文で扱おうとしている問題を説明する方がよい。個々の関連研究とその論文の研究との比較は、後の章でふれればよい。
    • 「研究のアイデア」の書き方

      • 悪い例
        • システムの概観図を示し、次に詳細な処理の流れを説明する。
      • 良い例
        • アイデアの要点を述べ、例を使って概要を説明する。次に、小テーマごとにわけて詳細を述べる。
      • NOTE
        • 研究のアイデアは、あくまで読者が自分のシステムにも応用できるように、アイデアの要点を一般的に述べるべきである。自分のシステムの全体像をまんぜんと解説するだけでは不十分である。次の例は悪い例である。
        • 3章 提案するシステムについて
          •  提案するシステムの概要
        • 4章 具体的な機能、仕様の能書き
          • – 提案するシステムの具体的な機能説明
          • – 追加システムコールの仕様
        • これは次のように、直すとよい。
        • 3章 提案するシステムについて
          • – 提案するシステムの要点とその効果
          • – 代表的な例による、システムの動作説明
          • – 主要なシステムコールの役割、機能
          • 一般論から具体的な細部へ、階層的に述べるとよい。また、細かい仕様などは4章にせず、Appendix などにする方がよい。
    • 「実験」の書き方

      • 何を知るための実験か最初に述べる。
      • 実験結果から何がわかったか、最後に述べる。
      • 「性能評価(Evaluation)」という章を作るのは難しい。「実験」や「使用例」が適当。システムの「評価」をするためには、網〜的な実験が必要。
      • NOTE
        • 性能評価というのは、あるひとつの条件下で、他のシステムと比べて速度が上がることを示すことではない。システムの振る舞いを、さまざまな側面、例えば速度、メモリ使用量、使いやすさ、について測定することである。
        • 多くの人が性能評価だと思っている実験は、しばしば、性能評価のために必要な多くの実験のうちの一つに過ぎない。ときには、性能評価をするために必要な実験ですらなく、単にそのシステムの使用例であることもある。例えば、拡張可能なファイルシステムを拡張して、ファイルのロックの速度を改善したら、それはそのシステムのひとつの拡張例である。ロックが速くなったことを示す実験は、その拡張例の性能を評価するための一連の実験のひとつである。けして拡張可能なファイルシステムの性能を評価するための実験ではない。
    • 「まとめ」の書き方

      • 短くてもよい
      • 単なる要約でなく、その研究分野における論文の寄与(contribution)を述べる。
      • 今後の課題(futurework)を述べる。
        • 不十分な点を指摘するのではなく、今後研究を発展させるとしたら何をすべきか、を書く
      • NOTE
        • 「まとめ」と「はじめに」はどうしても内容が重複してしまうが、「はじめに」が要約であるのに対し、「まとめ」は結論である。その論文で述べられた研究のアイデアが、その研究分野において、どのような価値をもつのか、設定した問題をどこまで解決できているのか、を客観的に書くとよい。
  2. 文章技術

    • トピックセンテンスをすべての段落(の最初)に入れる。
    • 逆茂木型の文章を書いてはいけない。
    • 論理の鎖を省略してはいけない。
    • 例中心主義
    • NOTE
      • 文章技術については、木下是雄の「理科系の作文技術(中公新書624)」にくわしい。この本は、論文を書く前に是非一度読むべきである。
      • これから解説することは、例中心主義を除き、「理科系の作文技術」にも書いてある。特に、逆茂木型の文章の「逆茂木型」は木下是雄の造語である。
    • トピックセンテンス

      • その段落の主張を一文でまとめたもの
      • トピックセンテンスを段落の先頭におく
        • 速読するとき、読者はトピックセンテンスをななめ読みするものだ。
      • NOTE
        • 各段落には、必ずその段落の主張をまとめた一文が含まれているべきである。その一文をトピックセンテンスという。段落の内容によっては、トピックセンテンスを作りにくいかもしれない。たとえば下の例をみてほしい。
        • 「例えば、軽いプロトコルを実装する場合には、まず図1のようなプログラムを書く。このプログラムは…」しかしこのような場合でも、「例えば、軽いプロトコルを実装する方法を示す。まず図1のようなプログラムを書く。このプログラムは…」とすれば先頭の第一文がトピックセンテンスとなる。
        • トピックセンテンスは段落の先頭に置く方がよい。日本語の場合、はじめ多少の違和感があるかもしれないが、慣れるとうまいトピックセンテンスが選べるようになるものである。
    • 逆茂木型の文章

      • 最後まで読まないと全体の意味が不明な文章を書いてはいけない。
      • 日本語族に典型的な悪いクセ
      • NOTE
        • 「~である。だから~で、そうすると、~となり、だから~である。」というスタイルの文章を書く人が多い。枝葉の話題から始まり、幹に達すると、また別の枝葉に移り、最後にすべての枝葉の話題が合流して結論となるような文章は、最後まで読まないと全体として何を言おうとしているかわからないので、読みづらい。このような文章は逆茂木型といい、悪い文章である。
        • よい文章では、結論が先にきて、枝葉の話題は後ろになる。そのような文章は読みやすい。なぜなら、文章の前から順に、その文章の結論、理由、具体例と、概要から細部へと、無理なく読者の頭へ入るからである。英語の文章はこのような形になることが多い。例えば、”We propose that … so that … because … for example …” と、正しい形にするための接続詞が豊富である。
    • 論理の鎖

      • 論理の鎖を(読者が埋めてくれることを期待して)はぶいてはいけない。
      • 多少くどいと思っても、AだからB、BだからC、Cだから。。。と丁寧に論理を展開する。
      • 自明だろう、と思っても、実は論理の飛踊がある場合がしばしばある。
      • NOTE
        • 「理科系の作文技術」によると、とくに英語では論理の鎖を省いてはいけないそうである。明白でないより、くどい方をよしとするのが英語だそうだ。一方、日本語では、多少わかりにくくても、多くを語らない奥ゆかしさが尊ばれる。だが、論文を書いているときには、この奥ゆかしさは忘れたほうがよい。
        • また、「書込みが起きたホスト」を、とくに断りなく2回目以降、「writerホスト」などと省略形で呼ぶようなことはしてはいけない。これも論理の鎖の省略の一例である。どうしても省略形を使いたいときは、1回目のときに、「書込みが起きたホスト(writerホスト)」と断るのがよい。同様の例として、オペレーティング・システムのことを、最初からOSと書くのもよくない。「オペレーティング・システム(OS)」とすべきである。
        • 同様に、同じことを章や節によって違う言葉で表現するのもよくない。たとえば、ある場所では「メールリーダ」という言葉を使い、同じものを表すのに、別の場所では「メーラ」や「クライアント」などという言葉を使うのはよくない。同じものを指す言葉はひとつに統一しなければならない。
    • 例中心主義

      • 例を作った説明
        • 抽象的な説明を長々とするよりも、具体的な例をひとつ示す。
        • クラスXより、クラスPointを使う
        • NOTE
          • 論文全体をとおしてひとつの例を使い、問題意識やその研究のアイデアを説明できるとよい。理想的には、抽象的な説明、例を使った説明、抽象的な説明、例を… と交互になるような構成がよい。
          • 例を選ぶときにはできるだけ具体的になるようにする。例えば、メンバー関数 f() と g() を持ったクラス X よりも、メンバー関数 move() と change_color() を持ったクラス Point の方が望ましい。
  3. 文章を書く心得

    • いい文章より、わかりやすさ
      • 段落はテーマ
      • 短い分、短い段落、になるように心がける
      • 条書きを利用する。
    • 読者に頼んで読んでもらっていることを忘れずに
    • NOTE
      • 日本の国語教育が芸術的な文章の読み書きに偏っているせいか、格調高い文章こそよい文章であると思っている人は多い。だがこと論文に関していえば、わかりやすい文章こそ、よい文章である。
      • よい文章を書くための近道は、まず、わかりやすい文章を書くのはとても難しい、ということを知ることである。わかりやすい文章を書くためには、書き手である自分が、書こうとすることを正確に理解していなければならないが、しばしばそれは非常に難しい。仮に理解していても、まったく新しい考えを他人に伝えるには、それなりの技術が必要である。

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